“異世界18きっぷ”の作り方―異世界モノ短編小説をこう書いた。
カクヨムで公開した短編小説『異世界18きっぷ』について、色々と書いていきたいと思います。このブログではこれでもか! というぐらいネタバレしまくっていますので、もし『異世界18きっぷ』を先に読みたい方はこちらのバナーをクリックしてください。だいたい18分程度で読めますので、ぜひご愛読してください。
1.短編小説のテーマからどう決めたか
今回は予め、“日帰りファンタジー”の短編小説大賞というテーマだったので、日帰りでできる旅は何なのかとと考えてみました。最初は『弾丸ツアー勇者』を閃いたのですが、これ絶対誰かやるなと思い、敢えてやめました。あとは『ドローンで異世界を覗いてみよう』とか色々と考えましたが、これは面白くないな、と、ボツにしました。
ここで『旅なんだから列車を使うか』という発想にいたり、『日帰り旅なら青春18きっぷを使うのが、いいかもしれないな。24時過ぎたら一枚分使えなくなるし』と、“異世界18きっぷ”というタイトルと、テーマ設定が構築できました。
タイトル:異世界18きっぷ
テーマ:日帰りの旅
2.短編小説のプロットをどう書いたか。
基本、私はプロット中心で物語を書いており、珍しいタイプの書き手だと思います。
さて、今回のプロットは、3つのメインプロットから構築されています。
1 異世界列車の旅:起承転結の「起」「結」でノスタルジックな現実世界
A:主人公が異世界列車に乗って旅に出る。
B:目的を果たして帰ってくる。
2 冒険者トバの冒険:物語の枢軸で「承」と「転」でシビアな異世界ファンタジー
A:酒場にいた魔法使いの少女フィーラとの出会い
B:悪役の商会長、ケレードからクエスト『「星の石」の真偽性について確認せよ』が依頼される。
C:しかし、そのクエストが実はウソだったことがわかる。
D:クエストの手段が尽きた時に助け人と出会う。
E:ケレードとの交渉中、助け人が「星の石」がある場所へと連れて行く。
F:クエストをこなすが、ケレードはそれを認めない。
G:マスターからの依頼→そして大逆転へ。
3 もう一つの世界のクエスト:物語の試練。コメディとバトルを織り交ぜる。
A:過酷な塔『星海の灯台』の頂上へ行く。
B:キングガーゴイルの討伐。
C:目的の宝物を獲得する。
見ての通り、メインプロットとなっているのが2のトバの冒険です。もしかすると、このメインプロットだけで異世界モノが書けたかもしれません。
けれども、この別々のメインプロットを列車の車両のように一つにつなげることによって、全く別の異世界モノへと構築することができました。
1-A:主人公が異世界列車に乗って旅に出る。
2-D:クエストの手段が尽きた時に助け人と出会う。
2-E:ケレードとの交渉中、助け人が「星の石」がある場所へと連れて行く。
3-A:過酷な塔『星海の灯台』の頂上へ行く。
3-B:キングガーゴイルの討伐。
3-C:目的の宝物を獲得する。
2-F:クエストをこなすが、ケレードはそれを認めない。
2-G:マスターからの依頼→そして大逆転へ。
1-B:目的を果たして帰ってくる。
助け人を主人公へと置き換えるとあら不思議、3つのストーリーが1つのストーリーにまとまりました。
まあ、実際はこんなにテクニカルに書いたわけではありません。ただ『3つの世界で移動すると、3つの話が現れる。じゃあ、先にその3つの話の根底を作れば、異世界列車がうまく橋渡ししてくれるかもしれない』と考えてました。
意外とこれがうまくいき、3つの世界の出来事が1つの物語に収束し、「これが異世界モノの醍醐味か」と、納得しました。
ちなみに、メインプロットから外れた筋書きは、所々会話で挟むようにしました。ぜひ、探してみてください。
3.短編小説のキャラクターをどう書くか。
長編小説やライトノベルと違い、短編小説はキャラクターの掘り下げはほぼ無理と言っても過言じゃありません。
基本、キャラ小説と言われるライトノベルは、サブキャラから悪役までがメインキャラクターをヨイショしています。ご都合主義とよく言われますが、小説の性格上、致し方ないと思います。
またライトノベルの長編モノだとメインプロット以外にも、サブプロットがあり、そのサブプロットでヒロインの掘り下げや、主人公の成長などが描かれます。このサブプロットにこそ価値があります。
しかし、短編小説ではこのサブプロットを書くのは至難の業、ましてや今回ような予めテーマが決まっているものはだいぶきつい。書けたとしても、1つ、2つぐらいしかできません。
さて、それでは短編小説のキャラクターはどう書いたかというと、単純に、メインキャラクターをだいぶ絞りました。
・ 主人公(主人公。助け役でストーリーテラー)
・ トバ(もうひとりの主人公。ヒーロー)
・ フィーラ(ヒロイン)
・ ケレード(悪役・狂言回し)
・ マスター(助言者)
・ キングガーゴイル(敵役・試練)
6人もいれば、短編小説だとけっこうスムーズに流れると思います。
4.短編小説のチートはどう使うか?
異世界モノの代名詞、チート。主人公自体がチートか、最強の魔法を所有しているか、それとも最強の武具を身に着けているか、などがあります。チートはこれがあれば、どんな難問でもなんとなるという安心感を与える素晴らしいものです。
今回の短編小説ではどんな場所でも異世界でも渡る『異世界列車』自体をチートにしました。というより、異世界行くモノならだいたいチートじゃないという発想から来ています。
異世界列車の能力はずばり“何処にでも行ける”非常識な乗り物。『異世界列車』の活躍は本編中で何度も出ていますのでぜひ確認してください。
5.短編小説の主人公はどう書くか?
短編小説の主人公はたいてい殺されるか酷い目に会うイメージがあります。話が短い分だけ、あっと驚かせないといけない、インパクトがないといけない、といったことを考えてそうなるのかと思います。
ただ、今回、日帰り旅なので、主人公が死ぬわけにはいきません。となると、主人公はテーマに沿った旅を純粋に楽しむヒトであるのが好ましいと思いました。勿論、旅が嫌いな主人公が旅に出るとかも面白いですし、知らない間に旅に出ていたと悩む主人公も捨てがたいところです。ただ、今回はストーリーの展開上、『助け人』の役割を持たせたかったから、異世界の旅慣れしている主人公にしました。
なお、名前は青春18きっぷから青春(あおはる)カズヤ。ひねりも何もありませんが、一番ピンとくるのがこれしかありませんでした。
6.その他:物語の重力
異世界モノに関して自由な反面、物語の重力を持つ何かを持たせないといけません。
物語の重力とは話の枢軸となるもの、なぜ、主人公やキャラクターがこの場に立っているのか? と読者が思うものです。もし、この重力がなくなれば、文字や言葉が無重力状態となって、力の行き場を失い、ふわふわした状態になります。
物語の重力となるその何か、基本、その何かは主人公の目的になると思います。
異世界で無双する:異世界で暴れまくる。
異世界でスローライフする:異世界でゆったりのんびり生活する。
異世界でチートする:異世界で世界のシビアさをこじあけ、カタルシスを味わう。
などなど、主人公の目的によって、話に重力をもたせることができます。
今回のテーマである日帰りファンタジーの場合、どんな重力があるのか考えた所、けっこうあります。
>異世界で日帰りファンタジーをする
1:異世界でのんびりと旅をして現実世界に対する英気を養わせる。
2:現実世界のムシャクシャを異世界で発散!
3:現実世界だと冴えないけど異世界だと無敵!
など、日帰りファンタジーにおける物語の重力は、この現実世界と異世界の対比になると思います。現実世界のマイナス部分が、異世界に行くことでプラスとなり、物語の見栄えにもなります。
ただ、今回の作品における現実世界と異世界の対比はあまりしていません。今思えばけっこうもったいないことしたなと感じています。
7.終わりに
異世界モノ短編小説をこう書いたというテーマでブログを書きましたが、意外と書けましたね。ここまで読んでくれた方は感謝します。
これから異世界モノ短編小説を書こうと思う方がいれば幸いですし、よし、ついでに『異世界18きっぷ』も読んでやるかと思われる方がいられたら嬉しい限りです。
それでは、ここで失礼します。